シリカゲル

『シリカゲル』という文字を見たとき、
『シニカケル』と見えて少しドキッとした。
ただの見間違えなんだけどね。








いつものようにお茶を淹れる。
事務所でも、例えナルの家にいたとしてもお茶を淹れるのは私。
ナルは・・・・・・淹れるはずがない。
少なくとも私に対しては、ない。
別にそれが不満だとか気にくわないだとかそんなことはないんだけど。
ないんだけど、ね。




だからそれはちょっとした好奇心。
お湯を沸かして、お茶菓子準備しようと箱を開けたら、
足元にポトっと落ちてきた、ソレ。
お菓子はコレで最後だし、必要ないものとなったソレをゴミ箱に投げ入れようとして、
ふと、その手を止めた。


ソレは、シリカゲルという乾燥剤。
ほら、よく見るでしょ。”食べられません”とか”危険”とか書かれている例のアレ。
”食べられません”
その言葉が私の好奇心を刺激する。



・・・・・試してみますか?



流し台にあるはさみで丁寧にその袋を開ける。
中の小さな粒を、たった今淹れたお茶の中に淹れる。
今日のお茶はミルクティー。
すんなり、粒は見えなくなった。
色にもにおいにも、変化はない。
私はそのままカップをトレイに移して、
彼のいる応接間へと向かった。



「オマチドウサマ~」
「遅い。」
短く一言。
今日も不機嫌な所長様。
・・・・・いつもそうだもんね、ナルは。
「はい。」
ナルの前にお茶を置いて、自分の分のお茶も置く。
「今日はねーイギリス産のお茶なんだよー。
 ミルクティーが合うんだって。綾子が教えてくれたの。」
「くだらない予備知識を蓄える前にもう少し迅速に仕事をしたらどうだ。」
「・・・・・・そうですか。」
「そうだ。」
例え私がどんなに頑張ってお茶を選んでも、
どんなにおいしいお茶を淹れたとしても。
結局ナルには伝わってなどいないのだ。



それならいっそ、と思うのは。
そんなに悪いことだろうか。



ナルはいつものように無表情のまま、カップに手をつける。
そしてそのままソレを持ち上げる。
「いただきます。」
飲む前に一言、ぽつんと呟いてナルがカップに口をつけるよりも、
麻衣の腕がそのカップをはじき飛ばしたのが早かった。






「!?」
突然の行動に驚いたナルがあっけにとられて麻衣を見ると、
青白い顔で、息の荒い少女がそこにいた。
「何なんだ一体。」
「ナル・・・・・・・反則だよ。」
未だ荒い息のまま、それでも麻衣は笑っていた。
良かった。間に合って本当に良かった。
「反則?何が?」
「何で今日に限ってそんな事言うのさー。」
「は?」
「普段は何も言わないクセに。」
「??」
訳がわからないといった表情のナルを見ながら、
麻衣は心底安心したといった声で
「あーあ、失敗だなー。」
大げさに呟いて、まだ一口も飲んでいない自分のカップの中身を
「麻衣っなにを・・・」
ナルが止める前に盛大にテーブルの上にぶちまけた。






どちらのカップに入ってるかなんて、麻衣にもわからなかった。
同じカップだから。
どっちでも良いと思った。
大体、”食べられません”なんて表示されていたって別に死ぬわけではない。
ちょっと体調不良になるとか、気分が悪くなるとか、それくらいだろう。
だけど、シリカゲルは「食べてはいけない」事は事実。
少なくとも「危険性」があるのだ。





苦しむナルが見てみたかった。
苦しむ自分を目の前にした時のナルの顔が見てみたかった。







”シリカゲル”という文字を見たとき、
”シニカケル”と見えて少しドキッとした。
”死にかける”と見えてドキッとした。





ただの見間違えなんだけどね。





fin