奇客訪来

コンコン、という軽いノックの音で私は顔を上げた。

「リンさん、ちょっといいですか?」

思った通り、バイトの谷山麻衣がちょっと遠慮しながら顔を覗かせた。

「あの、ナルどこにいるか知りませんか?」

気のせいだろうか。彼女は何となく落ち着かない感じであった。

「ああ、ナルなら・・・3時頃には戻ると思いますが。」

時計を見ながらそう答える。

「依頼ですか?」

少女は大きく頷く。

「どーしよー・・待たせちゃうのも悪いかなあ。忙しいだろうし・・・。
 あーもう何でこんな時に限って所長がいないのよー。」

彼女にしては珍しい対応だな、と思う。
相手は知り合いなのか、それとも相当切羽詰まった人達なのだろうか。

「あのーリンさん。リンさんだったら私よりは全然詳しいと思うんで・・・その、
 話、聞いてもらえませんか?」
「私が・・・・・・ですか?」

人と話をするのは苦手なのですが。

「お願いしますっ。あの、依頼に来た人達、とっても有名な人達なんですよー。
 テレビとか出てる人がわざわざ自分で依頼に来るなんて、相当深刻なんだろうと思って・・。
 あんまり待たせちゃ悪い気がするし・・・それで・・・。」

なるほど。彼女がどことなく落ち着かない様子である理由がわかった。
私自身には関係ないし興味もない事だが、年頃の彼女にとっては大事件なのだろう。
話しながらも、少女は何度も後ろを振り返る。
よほど気になるらしい。
断ろうと思ったが、彼女があまりにも真剣に、懇願するような目で訴えてくるので、
しかたなく了解することにした。

「やたっ。リンさんありがとう!あ、今からお話伺いますので。」

彼女は嬉しそうにそう言った。まあ仕方ない、これも仕事だ。
そう思い資料室から出てみると、


「                    !?」


私が目にしたものは、かなり不思議な光景だった。

「あーよかった。頼りになりそうだね。」
「そうですなぁ。忙しいところわざわざ申し訳ありません。」

そんな声が、私に向かってかけられた。
だが、私はどう返事していいのかわからない。
何だ?コレは何なんだ??

「ん、リンさん、どしたの?

バイトの少女は私の分のお茶を持ってキッチンから出てきた。
「谷・・・・・山さん、これは一体・・・・?」

少女はびっくりした顔で私を見上げる。

「え、リンさん知ってたんですか?
 わーあんまりテレビとか見てなさそうだから知らないと思ってた。
 そっか、有名だもんね二人とも。」

いや、知らない。断じて知らない。といかそうではなくて、

「いやあ、照れるなあ。」
「麻衣さんそんなに褒めなくてもいーんですぞぉ。」
「えーだって本当に有名じゃん。私小さい頃から知ってるもん!」

事態が飲み込めない。私はどうすればいいんだろうか。

「じゃ、改めて紹介しておきますね。知ってはいると思うけれど、
こちら、依頼者のガチャピンさんとムックさんです。」
「どーもどーも~」「はじめましてー」

と、この黄緑色と赤茶色の生物はにこやかに(にこやかに!?)挨拶をした。

「・・・・これは、谷山さん、一体、何なんですか?」

恐る恐る訊ねてみる。彼等(?)はどうしても、人間には見えない。
少なくとも私の目には人間に見えない。
だけれどもバイトの少女は実に朗らかに嬉しそうに話を進めている。
日本語を話していたし、どうやら報道メディアにも昔から進出しているらしい。
つまり彼等は一般に言うテレビタレントとかいうやつで、日本ではそれがまかり通っている、
ということなのだろうか。
そんな莫迦な。大体、人間でないものがどうしてタレントになれるのか。
即刻研究所に送られるべきではないのか。
それとも彼等はれっきとした日本人なのだろうか。
日本という国はこれほどまでに不可解な国だったのか。
数秒の間に私の脳裏では色々な疑問が浮かんだ。全く答えが出ない疑問ばかりだ。

「あー・・・やっぱ知らなかったか。リンさんテレビ見ないからねー・・。
 とりあえず、話だけでも聞いてあげて下さい。」

少女は何も不思議には思っていないようだ。
それどころか、とても楽しそうに彼等と会話をしている。
日本人が特殊なのか、彼女が変わっているのか、それとも私の目がおかしいのか。
そんな私の心中は露知らず、少女は私をソファに座らせる。
・・・・・・正面から向き合う羽目になってしまった。

「あの・・・・・、つかぬ事をお伺いしますが、生まれはどちらですか?日本・・・ですか?」

この質問をするのにどれくらい勇気がいったかは語らなくてもいいだろう。
それに対して答えは、

「あのねぇ、僕はねえ、恐竜の生き残りなんだ。南の国で生まれたんだよ。」
「私は雪男のこどもですぞお~。」

・・・・・・・・人間じゃないじゃないか。私にどうしろというんだ。

「・・・・・谷山さん、こちらの方達は本当にテレビに出演しているんですか?」

依頼に来たのが人間以外の生物なのは前代未聞だ。
霊なんかより彼等の方が特殊ではないのか?

「うん。ずっと昔からテレビで子供達に大人気なんだよ。
 あっ、ガチャピンはロケットで宇宙にも行ったんだよー。」

あやうく飲んでいた紅茶を吹き出すところだった。

「・・・宇宙、ですか!?」
「そうなんだ~。まぁ、電波が悪くってテレビでは放送されてなかったんだけどね。」
「残念ですなぁ。せっかくガチャピンの勇姿を見られるチャンスでしたのに。」
「ホント。私も見たかったな。」

・・・・日本という国は、霊現象ととても相性が良い国だとは思ったが、
人間以外の生物を宇宙に送り出すまでに不可思議な国だとは思わなかった。

「・・・谷山さん、やはり私ではムリです。」
「えーー、そうなの?うーん、やっぱナルを待つしかないのかなー。」
「いや、多分、ナルでも無理だと・・・、」

その言語はドアのカランコロンという音で途切れてしまった。
気難しい所長が帰ってきたのだ。
まずい、と思った。
ふつうの依頼でも機嫌が悪ければ断ってしまう人だ。
この二人(?)を見て気分を害さないはずがない。

「ナ、ナル、これは・・・。」

慌てて説明しようとしたが、少女の方が一足早かった。

「あっ、ナルっ、お帰り。よかったー、待ってたんだよvこちらの方が依頼だそうです。」

・・・ああ、言ってしまった。
ナルはそこで初めて依頼者の存在に気付いたようだ。

「どうもー、こんにちわー。」
「うわぁ、すっごくキレイな人だね。」

私は思わず顔を覆った。
この後のナルの機嫌は低迷を続けるだろう。少なくとも一週間は。
休みなく付き合わされる私の身にもなってほしい。

「・・・依頼?」

ナルは緑色の「恐竜」と赤色の「雪男」を見やる。

「そうなの。帰ってきたばかりで疲れてるとこ悪いんだけど
二人とも無理にスケジュール空けてきてるから、ね、お願い。」

少女は笑顔のままでナルに懇願する。
ナルはそれを見て、そしてソファの依頼主を見る。
ああ、ムリですって。ナルが聞くわけないじゃ

「・・・・・ご用件は?」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・は?
今度は自分の耳を疑った。
そんな私の心中はまるで無視して、ナルはソファに座る。

「・・・・ナル?本気ですか?」
「・・・・何がだ?」
ナルは無表情で仕事用のファイルを開いた。
「わーナルありがとうvv」
「良かったー話聞いてもらえますか?」
「良かったですなあ。」
「まだ依頼を受けるとは言っていない。」
「うん分かってるよ。でも話は聞いてくれるんでしょ?」

少女と依頼主達はとても喜んでいる。
いいんですか!?ナル!?
混乱のまま立ちつくしている私に気付くと、ナルは不機嫌そうに眉をひそめた。

「・・・・何をしている?」
「え?」
「仕事はどうした。用は終わったのだろう?早く部屋に戻れ。」
「は、はあ。」

私は訳も分からないままに資料室へと戻る羽目になった。
背中で、ナルがいつもの調子でに依頼内容を質問し始めたのを聞いた。




部屋に戻って深く溜息を付く。
そして、ふと、ナルも半分日本人であることを今更ながらに思い出す。
・・・・・日本人って。
再び深く溜息。
とりあえず、残りの仕事を片付けよう。
で、明日やろうと思っていた資料の編集もやってしまおう。
寝れなくてもいい。むしろ今日寝たらあの二人が夢に出てくる。
にしてもあの二人は、本当にいったい何なのだろう・・・・。




後日、依頼を受けたナルに指名されてリンは彼等と共に一晩を明かす事になるのだが、
それはまた別のお話。





あと言い訳。


もうまずはじめにゴメンナサイ。

これは高田が初めて「脳下垂体ナルシスト」様に献上した小説です。
3年くらい前でしょうか?当時は「くくる」というHNでした。
ええ、高田GHファン歴長いですよ。(笑)
この話を知っている方も結構いらっしゃるかもしれません。
この度、管理人さんに許可を頂いて再度UPとなりました。
若干文章が変わっているのは大目に見て下さい。(えー)

にしても人様に最初に献上した小説がコレって。
普通の話は書けないのか高田・・・。
リンさんが悲惨なのは、もう、愛ゆえに。