祈ればいいのに。
両手を組んで、膝をついて、声を出して、神様にでも何にでも祈ればいいのに。
そうでないと、


神様、神様。




「神様って、いるよねぇ。」
麻衣はテーブルの上に顔をのせながらそう言った。
「・・・・・僕に、それを聞くのですか?」
麻衣の前には、金髪童顔のかわいらしい神父が一人。



静かな午後のヒトトキ。



「ね、神様っているよね。」
念を押すように、麻衣は再度ジョンに訊ねる。
ジョンは静かに目を閉じる。
「僕は、存在すると信じています。」
だけど、と、ジョンは付け足した。
「僕は、僕の神と、麻衣さんの神様は別のもんちゃうかと思てます。」
「・・・・・と、言うと?」
麻衣は不思議そうに顔を上げる。
「ええと、極端な言い方になってしまうのんですけど・・・、
 ”信じる”という気持ちが、神を生み出すんやと思います。」
神父のクセにこんな事を言うと怒られてしまうかもしれまへんが、と、
ジョンは微笑った。
「いる、言われても信じる人と信じない人もいるでしょう。
 だから僕は、無理に信じることはない、思うんです。
 うまくは言えんのんですけど・・・・、その人の”信じる”という気持ちが大切なのであって、
 ”いる”か”いない”かはそない問題ではないと思うんです。」
「霊と、同じ?」
「まあ、そうといったらそうかもしれませんし、違うといったら違うかもしれません。
 ・・・・うまく言えなくてスミマセン。」
「そうだね、霊と一緒にしちゃ悪いよね。こっちこそ変なコト訊いてゴメン。」
ばつの悪そうな笑顔を浮かべて麻衣は立ち上がる。
「そっか。”いる”か”いない”かが問題じゃないんだ。」
背伸びをしながら窓の外を見つめる麻衣を見て、
ジョンは優しく目を細めた。
「・・・・・・・だからね麻衣さん。」
カーテンが風になびいた。
「ムリに、祈らんでも、ええのですよ?」
麻衣の動きが、止まった。




祈ればいいのに。
両手を組んで、膝をついて、声を出して、神様にでも何にでも祈ればいいのに。






ジーンの、冥福を。






そうでないと、
そうでないと、
私は。





「・・・・・・ジョンはすごいなあ。」
麻衣は明るい声で言った。
「それともアレかな。やっぱ私ってわかりやすいのかな。
 ちょっとは気をつけてるつもりなんだけどなー。」
「大丈夫、ですよ。」
ジョンの声は、優しい。
「ここに来ている事、皆さんには言ってないんでしょう?」
「・・・・・うん。」
毎回教会に来る度に、麻衣はジョンに「遊びに来たよー」と元気な報告をしていた。
確かにそれは事実だった。
だけど、それ以外にも目的はあった。





「あたし、ダメなんだぁ。」
「・・・・・・・・。」
「ジーンにね、幸せになってほしいんだ。」
「・・・・・・はい。」
「でも死んでんじゃん。」
「・・・・・・はい。」
「死んだ人の幸せって、安らかに眠る事だと思うの。
 幸せっていうか、何ていうか、一番いい方法っていうか・・・・。」
「・・・・・はい。」
「お父さんもね、お母さんにも、安らかに眠っていてほしいの。
 私のことなんか気にしないでって。
 心配しないでどうか安心して眠っていて、って。」
「・・・・・はい。」
「・・・・・・・でもジーンはダメなの。」
麻衣の声は震えていた。
「祈れないの。」
午後の日差しが、開け放たれた窓から穏やかに入り込む。
「どうしても、どうしても、祈れないの。」



神様なんていない。
私がジーンを好きでいる限り、いない。
私とジーンをこれ以上引き離すというのなら、
神様なんていらない。



「好きなの。」

麻衣の言葉は、まるで懺悔をしているかのように、響いた。




「・・・・・麻衣さん、」
ジョンは立ち上がって麻衣の方へ歩いた。
「そない、あせらんでもええと思います。
 ムリせんほうがいいです。そんなこと・・・・、彼は望んでへんとおもいます。」
ゆっくりと、できるだけゆっくりとジョンは言った。
「大切なのは麻衣さんのホントの気持ちです。」
麻衣は涙で濡れた目でジョンを見上げた。
ジョンは、いつもどおり優しい目を、していた。
「だいじょうぶだから。」


その言葉にうなずいて、麻衣はジョンに抱きついた。
そして、思い切り、泣いた。




「みんなには、言わないでね。」
ひとしきり泣いて、麻衣はそう言った。
「なんか変な心配とかしそうだから。」
「麻衣さんがそれを望むのなら。」
ジョンは優しくそう言った。
「神に誓って?」
「うーん、そうですね。」
「じゃあ二人だけの秘密ね。」
「そうしましょう。」
「なんか、神様みたいだジョンは。」
「へ?」
「今までね、天使みたいだなーとか思ったことはあったけど、
 神様みたいって今日思った。」
「め、滅相もない。」
「ううん違うの。うまく言えないんだけど・・・・
 自分の中にちゃんと神様をもっている人なんだな、って。」
「・・・・光栄です。」
ジョンは照れながら笑った。
麻衣もそれにつられて笑った。
「・・・・・・・・ありがとう。」
そう、呟いて、笑った。



祈ればいい。
私の中の神様に。
たとえ今はムリでも、いつか、
心の底からそう祈れる日が来るから。




大丈夫。
大丈夫。
きっと、来るから。







神様、神様。
今はそう、願ってる。





fin






あと言い訳。

麻衣とジョンしか出てこない。
そのくせにシリアス。
「私こんな作品見たことないよ。」
と思ってる方ホントにごめんなさい。
麻衣じゃない、ジョンじゃない・・・っ。
と書いてる本人がつっこみ入れてましたんで。
(大問題)
ごめん相方。