二人でいること。一人でいること。

幼少のころの経験というのは、その後の人格形成に大きな影響を与えるという。
そして、その人格形成に重要な時期に、彼、ナルは両親に恵まれなかった。
ほぼ見捨てられた状態だった、と言っても過言ではないだろう。

それでも生きてこれたのは、もう一人・・・・・ジーンがいたからだろう。
生まれたときから二人だった彼らは、それから、デイヴィス夫妻に引き取られるまで、
ずっと、二人だった。
幼い、非力な兄弟が孤児院で過ごした日々は、
決して、恵まれたものではなかったはずだ。

それでも。

それでも、「二人」という事は「一人」という状況より圧倒的な力に成り得る。
例えそれが自分と同じ、似たような力しか持たない子供だったとしても、だ。
二人でいる、というのはそういう事だ。
人間、ほとんどの場合「一人」という状況に多かれ少なかれ不安を感じるものである。
そのことに、ジーンはきっと気付いていたのだろう。

けれど、ナルは。

ナルは気付かなかった、いや、気付けなかった、という方が正しい。
彼のそばにはジーンがいた。
誰よりも優しく、強い兄がいた。
ジーンはナルのそばで、いつもナルをフォローしていた。
ナルができるだけ傷つくことがないように、彼の一番近くでずっと彼を守っていた。
ジーンは優しかった。だからナルは、その事実に気づくことはなかった。


だからナルは、その真実に気付くことはなかった。
気付けなかった。


二人でいること。
ジーンはナルがいたから生きてこれた。
ナルは、ジーンがいたから生きてこれた。


ジーンは優しい子だった。
きっと彼は、これからもずっとナルを見守っていくつもりだったのだろう。
人一倍不器用な愛しい弟を。

だけど。

その優しさは、ナルにとって、
本当のやさしさになったのだろうか。




考える事は大量にあった。
想う事も。
けれど、私にはどうしようもない事なのだ。
彼等の問題なのだから。



「兄を探しに行く」という名目の日本への出発は、
もう、すぐそこまで迫っていた。



「ナル?」
軽くノックをして部屋のドアを開けた。
そこにはきちんと整理された本棚や書類、簡単にまとめられた荷物、
そして彼の姿があった。


「準備はできましたか?」
「・・・・・ああ。」
短い返事が返ってくる。
「・・・・・・何もありませんね。」
もともと異様に物が少ないシンプルな部屋ではあったが、
必要なものを先に日本に送ってしまった今となっては本当に何もないという印象を受ける。
「長い間留守になるしな。」
彼の声は何の感情も表してなかった。
窓際に立って、これといった感慨もなさそうに部屋を見ていた。

ここ数日の彼に特に荒れた様子もなく、穏やかだった。
ジーンの死を、そのまま体験したとは思えないほどだった。

嘘であれば良いのに、と思う。
例え、ナルの能力が疑われてしまおうと、こればかりは外れてほしい「映像」だった。
けれど、ナルの能力に間違いはないだろう。
私達はそのことを知っている。
そして何よりナルがその事を知っている。
ナルは、優秀なのだから。



「そろそろ下へ行きましょうか。」
下の階では、ルエラとマーティンが待っている。
そして空港ではまどかが待っている。
彼自身が感慨に浸るということは無いのだろうが、
ルエラが盛大に別れを惜しむのであろう。
そんなことを思いながら歩き出した私の足は
小さな力で遮られた。


「・・・・・・?」
振り向くと、ナルが私の上着を引っ張っていた。


「ナル、どうかしましたか?」
私の視線からはナルの表情が覗えない。
「ナル?」
「・・・・・・・・・・すまない。」
小さな声でそう言って、
「少し、背中をかりる。」
ナルは私の背中に額をおしつけた。



あまりに驚いたので身動きができなかった。
時間が、止まるかと思った。



ああ。そうだ。
ナルはずっと気付けなかった。
彼が自分にとってどんな存在であったかを。



『―だから、ナルが死体を探しにいくって言い出したとき、正直言って驚いたわね。
そういうことをするとは思わなかったから。』
後にまどかはこう語った。




いいえ、違います。
ナルだって、本当は。




部屋の中でこの状況は数分間続いた。



フッ、と背中が軽くなって、ナルが自分から離れたのが分かった。
「・・・・・悪かった。行こうか。」
そこには普段と何ら変わらないナルの姿があった。
まるで何事も無かったかのように階段を下りていく。
「・・・はい。」
返事をして、ナルの後を追った。
そして、今の出来事は誰にも話さないことに決めた。
デイヴィス夫妻にも、そしてまどかにも。
人の三倍はプライドの高いナルのことである。
きっと心の中で、今の自分の行為を愚弄しているに違いない。




日本に行くことで、何か変わればいいと思う。
ナルの中にある空洞のようなものが埋まればいいと思う。
ナルが少しでも満足できるのであれば、
大嫌いな日本にも行く価値はあるのだろう。



二人でいること。
一人でいること。



ナル、気付いてください。
今度こそ本当に。
ジーンはいなくなってしまったけれど、いつか、




あなたが、本当に甘えられる人を見つけて下さい。








fin










あといいわけ。

えーと、えーと、リンさんの語りは難しいです。
少し昔に書いたお話なんでうまく説明ができません。あわわ。
なんか色々とおかしな点があるかと思われますが、
そこは皆様各自で脳内修正してください。(汗)
は、恥ずかしいので寝ます。(オイ待て)